braiser(ブレゼ)


Salut! Tu vas bien?
どうも、シェフです。

今日はフランス料理の調理法・braiser(ブレゼ)の話。

毎日のように、お客様から話題に上る、
 - ブレゼって何ですか?
が、今日のテーマ。

フランス料理の調理用語って、聞き慣れないのもあれば、市民権を得てきたものも結構あるよね。

ロティ →あぁ、ロースト?オーブンで焼いたのよね?
ムニエル →小麦粉をつけて焼くんでしょ?
コンフィ →柔らかくほぐれるように脂で時間をかけて煮たのかな?
マリネ →漬け込んでるんじゃない?
スュエ →汗をかくようにゆっくりと炒める、だね。
ソテ →焼く?炒める?
フリ →揚げる!

そうだね、なかなかいい感じ。
これだけ分かれば フランス料理のメニュー表も、もう怖くない⁉

でもね、まだひとつ大切なのが残ってるんだ。
多用されてる調理法なのに、なぜか認知度がめっぽう低い。
調理用語界の秘境とも言える(?)あの言葉。

braiserブレゼ

どんな調理法か、さっと頭に浮かんだなら、
かなりな フランス料理“通” 。
プロでも勘違いしてる人も多いこの調理法を、今日は徹底解説だ!



例えば、冬のビストロを彩る この料理もブレゼ
Porc aux pruneaux
ポール・オ・プリュノ

豚肩ロースの表面を香ばしく焼いた後、
蓋つきの鍋に移して、オーヴンでじっくり火を入れていく。

豚肩ロース以外に鍋に入るのは、赤ワイン、ポルト酒、フォンドヴォ。
紅茶でもどしたプルーンと、その漬け込んだ紅茶。
レモンの薄切りに、クローブ。

この料理では、肉は、鍋の中で肩くらいまで水分に浸かってるイメージ。
オーヴンの温度を調節して、ゆるやかに沸いてる状態を保つ。
そして ときどき肉を返しながら、やさしく火を入れていくんだ。

蓋をして蒸気で満たされた鍋の中で、水分に浸かってじっくり加熱していく。
 - じゃぁ、和訳すると「蒸し煮」ってこと?

そうだね~、braiser(ブレゼ)って、蒸し煮って訳されることが多いんだけど、(辞書にもそう書いてある。)
僕の感覚だとちょっと違うんだ。
あえて訳すなら、蒸し煮焼き、煮汁かけ煮、含ませ煮、、、、
う~ん、しっくりくる言葉はまだ見つかってないんだけど、
安易に「蒸し煮」って訳しちゃうのは、そもそもブレゼのことが何もわかってないってことになる。少なくともプロならば、たくさんの料理に触れていくことでその訳し方じゃダメなことに気付く。

ちょっと難しい話になるけど、料理をイメージして もう少し付き合って。

ブレゼをちゃんと理解するポイントは水分にあるんだ。
これは 素材のもってる水分と 加熱するための液体 の両方を指す。
うまみを凝縮させながら、やさしく包括的に加熱を続ける。

加熱されるときに移動する水分と一緒に 味を外に溶けださせちゃ意味がない。
茹でてるわけじゃないからね。
調理中、目に見える水分は鍋の中の加熱のための液体湯気だ。
同時に素材のもってる水分の動きもコントロールしながら
必要に応じてarroserアロゼ(素材に水分をかけ潤す)し、時には補い、温度管理に気を配る。

それが、braiser(ブレゼ)

「蒸し煮」じゃないっていうからには
当然、蒸し煮みたいにしないで、蓋をしないブレゼもあるよ。紹介しようか。

ノエルのコース(→blog)に登場する、この料理もそのブレゼから始まるんだ。

Queue de bœuf braisée en chausson,
 sauce au cassis
牛テールのパイ包み焼き、ソース・カシス
アッツアツのパイを割ると、こぼれ出る幸せ♡
焼けた生地のバターの香り
ボジョレワインでブレゼした牛テールの芳醇
ソースカシスの甘酸っぱさ

浅鍋に入れた牛テールを、蓋をしない(!)で、オーヴンの中で加熱するんだ。
赤ワインとフォンドヴォを何度も 回しかけながら加熱する。

加熱中、水分を何度も何度も回しかける。
蓋をしないオーヴンの中で、ロティではなく、
あくまでブレゼの状態を保ち続けるんだ。
“焼き”感 の強いブレゼだね。


こうすることで、水分は肉を潤しつつ、表面に残った水分は次第に軽く焼けていく。
すると、肉の表面は徐々にカラメリゼされてきて黒光りしてくるほど。

肉の旨味は、潤す水分と一緒ににじみ出ては、うま味を増してまた肉に戻っていく。
この繰り返し。何度も何度も水分を肉に回しかけながら。

数時間後、肉はしっとりと香ばしく 照りよく煮あがり、
残った水分は極上のソースに仕上がるんだ。

ブレゼ、いいでしょ?


水分が少なくて蓋もしないから、乾燥が心配?
なら、その水分を 頻繁に肉にかけてやればいい。
大切なのは、素材と液体、両方の水分をコントロール下に置くことであって、
「蓋をして鍋の中を蒸気で満たして加熱する」がマストじゃないんだ。

結果的に「蒸し煮」してるみたいな状況になっていることが多いだけで、もっと深いところこそが大事なポイント。それが、「蒸し煮」って訳じゃ当てはまらない braiser(ブレゼ)の本質。

大切なことは、
「うまみを凝縮させながら、すべての水分をコントロールし、包括的に加熱する。」
これが、braiser の正しい意味。

もう、こんなに長いと 和訳、必要?って思っちゃうよね。
braiser は、ブレゼでいいんじゃない?

フランス料理らしさがギュッと詰まった、braiser(ブレゼ)
なんとなくでもイメージ出来れば、フランス料理はもっと楽しくなる。

 - 今夜は、どんなブレゼが食べられるかな?
そんなワクワクした気持ちで、冬のビストロにお越しください。
美味しいボジョレと、湯気が似合うあつあつの料理で、みなさまをお待ちしています。


冬の定番のひとつ、○○の赤ワイン煮。
これも分類すると、ブレゼでつくるフランス料理だ。
ただ、「ブレゼ」が市民権を得てないばっかりに、
その店のシェフが、伝わりやすい「赤ワイン煮込み」に変換してるんだね。

でも、そうするとシチューみたいなイメージ、沸いちゃわない?
異国の食を伝えることを生業にしたなら、
その食文化を意味する言葉も伝えなきゃ。

この冬、どこかで「赤ワイン煮」を食べる機会があったなら、
 -  「この料理も「ブレゼ」かな?」
って感じてみれば、フランス料理はもっと美味しくなるぞ!
ワクワクしちゃうね。



NOSTALGIE × AUTHENTICITÉ
ランスよりもフランスらしく 受け継がれてきた本物の味を 
chef

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